【採択助成事業】
2022年度伝統工芸助成
佐賀市大和町名尾地区に手すきの技術が伝わったのは1690年のこと。
昭和初期、和紙を作る家は100軒ほどありましたが、機械化による大量生産が可能になったことで、徐々に和紙産業は衰退していきました。
現在、名尾紙をつくる最後の一軒となった「名尾手すき和紙 株式会社」の谷口祐次郎さんにお話を伺いました。
◇可能性を広げる伝統工芸
「伝統工芸」と聞くと、なんとなく堅苦しさを覚えることがあるのではないでしょうか。
名尾手すき和紙さんの和紙は、そんな堅苦しさを一切感じさせないような、斬新なアイディアで和紙の可能性を意欲的に広げられています。
和紙は和紙でも、谷口さん一家の名尾和紙は提灯や唐津くんちの修復といった伝統文化に欠かせない場面でよく使われてきました。
昔から、佐賀県鹿島市に位置する祐徳稲荷神社で神具として、また最近では有名ブランドのチョコレート箱の箱を手掛けるなど、和紙の新たな一面を模索しながらその技術を受け継いできました。
手すき技術の見学も受け入れており、店舗を訪れるお客さんの半数は見学をされるんだとか。
学校の授業では子どもたちが工房を訪れ、地元の歴史を和紙を通して学んでいます。
◇災害による廃業の危機、そして再出発
時代の変化にも新たなアイディアで乗り越えてこられた谷口さん一家でしたが、災害には人の手も及びません。
2年前の夏、大雨で土砂崩れが発生。土砂が流れ、和紙を作る工房が傾く事態となりました。
そこで働く従業員の安全を考慮し、一時は休業を余儀なくされました。
廃業の危機にありましたが、佐賀未来創造基金を活用し新たな工房を建て、再出発することになりました。
「ここで和紙を作っているの?」と疑ってしまうくらいに、近代的な雰囲気のある工房は、もはや谷口さん一家の名尾手すき和紙の象徴ともいえるような、伝統と現代の融合。
新たな工房は、従業員の安全はもとより地域の方が災害避難所として使用することも可能になりました。
もちろん、和紙製造の作業効率も上がったと言います。
また、見学される方に和紙を作る工程を「流れ」として説明することも可能になりました。
◇まだまだ続く、新たな挑戦
名尾手すき和紙をつくるたった一軒の家として、300年間生き残った秘訣はなんですか、という問いにたった一言「がんばったから(常に更新してきた)」と答えた谷口さん。
その言葉は決して簡単な努力で言えるものではなく、大量生産・大量消費の現代の中で形を変えながら、手すき和紙という伝統工芸の歴史を紡ぎ続けてきた谷口さん一家の苦悩が窺える言葉でした。
今回工房を新しくしたことで、昔は隣りあわせだった販売店舗との間に距離ができてしまいました。
「和紙を作る工程から出来上がった製品まで近くで見てもらいたい」という思いで、今後は販売店舗も新築予定だそうです。
名尾手すき和紙さんの工房・店舗をぜひ訪れてみてください。新しさの中にも懐かしさが、懐かしさの中にも新しさを感じられるような、不思議な和紙に包まれますよ。