コロナ禍での気候変動を起因とする災害対応支援事業の実行団体インタビュー
災害時の拠点や憩いの場として喫茶店オープン
老若男女の交流機会を創出 地域住民と共同の避難訓練に発展
NPO法人みつわ(佐賀県武雄市北方町、2004年8月23日設立)は2023年2月19日、休眠預金を活用し、喫茶「笑美屋(えびす)」を同町にオープンしました。
高齢者や障がい者らが通ったり泊まったりすることができる宅幼老所などを運営する同法人は、なぜ休眠預金を使って喫茶店を開いたのか、喫茶店をどう発展させるつもりなのか―。代表の荒川千代美さんらに伺いました。
NPO法人「みつわ」について教えてください。
佐賀県には、小規模多機能型居宅介護の元になったと言われる「宅老所」という施設があります。宅老所には「通う」「泊まる」「暮らす」という機能があり、私たちは高齢者だけでなく、子どもも対象とした宅幼老所「笑びす」を佐賀県武雄市北方町の久津具地区で運営しています。
久津具地区では、タイプの違う2つのデイサービス事業所も運営しています。NPO法人は立ち上げてから、今年で18年目を迎えました。
地元の中学校と連携、協力し、認知症の方を支援する認知症サポーターの養成講座も開いており、開講してから約12年が経ちました。
また、臨終の立ち会いや遺族のケアを行う「看取り士」の資格を持っているので、資格の啓発だけでなく、事業所でも看取りに取り組んでいます。
認知症や看取り、介護に関する知識や経験を活かし、講演会活動も進めています。
2023年2月には、喫茶「笑美屋」をオープンしました。
佐賀県は19年と21年の2度、豪雨災害に見舞われました。
この久津具地区は豪雨の際に孤立する可能性がある場所であるため、防災の面でも地域の皆様を支えたいと考え、喫茶「笑美屋」をオープンしました。
休眠預金を申請した理由を教えてください。
先ほどお伝えしたように、久津具地区は災害時に孤立する可能性があります。
孤立してしまうと、救助や支援物資の到着まで数日かかります。
その期間をしのぐには、地域住民同士が助け合い、互助が必要です。
そこで、地域住民同士が親睦を深めることができ、かつ災害時の避難や支援の拠点にもなる場所を作りたいと考え、佐賀災害支援プラットフォーム(SPF)の公募に応募しました。
SPFの代表者には、宅老所連絡協議会の事務長を務めていた方がいらっしゃいましたので、私たちの活動について理解してくれていました。
その方との縁もあって申請に至りました。ありがたいことに、認可をいただき、助成金を活用して喫茶「笑美屋」をオープンすることができました。
なぜ喫茶店にしようと思ったのですか。
介護事業所を運営しておりますので、利用者さんのご家族は施設に気軽に来てくれていました。
しかし、地域の方が気軽に訪れるような場所ではありませんでした。これでは有事の際に必要な助け合いは生まれません。
気軽に、かつ誰でも集まれる場所は何だろうと考えた結果、喫茶店がいいなと思ったんです。
理由はもう一つあります。
災害時の食事の問題を解消したかったからです。
2019、21年の豪雨で被災した時に届いたのは、あんパンと水でした。
それだけでもありがたかったです。ただ、被災して不安な時に温かいものを食べると心が落ち着くだろうと考え、当時色んな方々の力を借りて弁当を配るボランティアに取り組みました。
このボランティアを通して温かい食べ物と心を届けることの大切さを痛感したので、それができる設備を整備しようと思いました。
地区には公民館もありますが、公民館は目的があって行く場所だと思っています。
利用する時には、予約して鍵を借りなければなりません。一方、喫茶店は行くのに予約したり鍵を借りたりする必要はありません。
むしろ、通りかかったついでにお茶やコービーを飲むことができます。
有事に備えて住民同士がつながる「癒しの場」「憩いの場」が必要だと考えてましたので、こうした機能を持つ喫茶店が最適だと思いました。
オープンしてみて、どう感じてらっしゃいますか。
施設利用者のご家族にとっての相談窓口になり、ケアマネージャーさんも立ち寄ってくれるようになりました。
コロナ禍で接触を控えていた部分はありましたが、感染が落ち着いてきたことで色んな人の交流が生まれています。
「ここに1人で暮らしている高齢者がいる」など、地域の課題について話す方もいました。
オープンしたばかりですが、温かさを感じさせていただいております。
施設利用者の中には、私たちが迎えに行くと来てくれませんが、ご主人の送迎であれば通ってくれる方がいます。
この方のご主人は、妻を送った後にコーヒーを飲んでくれます。そこで介護の愚痴をこぼし、帰宅しています。
私たちにとっては、ご主人の本音や介護の苦労を知れる貴重な機会です。こんなこと喫茶「笑美屋」をオープンするまではなかったので、本当に良い拠点を作ることができたと、日々感じています。
また、駄菓子を置いたことで子どもたちが買いに来てくれるようになりました。
大人だけではなく、子どもたちにとっての居場所にもなり得る可能性を感じています。
喫茶「笑美屋」は以前、地域共生カフェ「笑美屋」という名前でした。
改称しましたが、地域共生というコンセプトはそのままです。
地域共生を実現するという意味でも、子どもから大人まで世代を超えた人々が交流できるよう、工夫していかなければと思っています。
私たちは2021年の豪雨で、床下浸水の被害に遭いました。
被災するのは決して良いこととは言えませんが、被災したことでさまざまな方と出会い、そのつながりがあったからこそ、こうして形にすることができました。
今度はこの喫茶「笑美屋」での出会いがきっかけとなり、さらに新しいことが始まっていくような気がしています。
休眠預金は、貧困や社会的養護が必要な子どもに関する問題など、社会的に大きな課題を解決するために活用される印象があります。
その半面、私たちの活動は地域密着であるため、効果は限定的です。限定的であるにもかかわらず助成してくれたのは、SPFが私たちの活動を理解してくれた上で、その必要性を認めてくれたからだと思います。
SPFをはじめ、たくさんの方々の力のおかげでオープンできました。心から感謝しています。
今後の展望を教えてください。
独居高齢者を巻き込んだ避難訓練を実施しようと考えています。
佐賀県では2019年と2021年に災害が発生しました。
私たちは2年に1回のペースで被災していますので、「いつ来てもおかしくない」と認識していますし、地域住民の中には避難に不安を抱えている方もいらっしゃいます。
自治体などは、高齢者や妊婦、障がい者といった避難に支援が必要な、いわゆる災害弱者の避難計画を策定しようと進めていますが、地域でできることは地域でやっていこうと思っています。
まずは、久津具地区の中でも特に関わりの深い方々と話し合って独居高齢者らの避難計画や訓練の計画を練り、梅雨入りする前に訓練を実施するつもりです。
この訓練によって地域版の避難計画を作ることができれば、久津具地区の別の方々にも転用できます。
さらに避難計画の策定や訓練を通して得た知見が、別の地域のモデルになればとも考えています。
このほか、料理を作れるという機能を生かし、さまざまな事情で料理ができない家庭のために総菜を提供できるようにするつもりです。