コロナ禍での気候変動を起因とする災害対応支援事業の実行団体インタビュー
災害復旧、復興支援に向け、3事業を強化
代表「休眠預金がなければ実現できなかった」
寄付車の貸し出しを通して災害地の復旧、復興を支援する一般社団法人日本カーシェアリング協会(2011年7月15日設立、宮城県⽯巻市)は、「コミュニティ・カーシェアリング」「ソーシャル・カーサポート」「モビリティ・レジリエンス」の3事業を強力に推進するため、佐賀災害支援プラットフォーム(SPF)の休眠預金を活用しました。
なぜ休眠預金に申請し、どう活用したのか―。代表の吉澤武彦さんに伺いました。
日本カーシェアリング協会は、どういう団体なのですか。
業界団体みたいな名前ですがそうではなく、東日本大震災を機に生まれた非営利組織です。寄付車を活用した「コミュニティ・カーシェアリング事業」「ソーシャル・カーサポート事業」「モビリティ・レジリエンス事業」を行っています。
コミュニティ・カーシェアリング事業は、寄付車を地域の中でシェアしてもらう事業です。仮設住宅に車を届け、そこに住む方々に使ってもらったことが始まりです。
利用割合に応じて経費を負担する仕組みです。
車は高齢者の病院の送迎や買い物など外出支援に使われたり、旅行に行くときに使われたりしています。
石巻市では10地域の約450人が、市外では8地域の約300人が活用してくれています(いずれも2021年1月時点)。
ソーシャル・カーサポート事業は、定額制で寄付車を貸し出す事業です。
一般の方はもちろん、生活困窮世帯やNPO法人、移住者などが対象です。
困っている方や地域のエンパワーメントに貢献する個人、団体を寄付車の貸し出しによって支援しています。
この事業の中には、返却を条件に低額で貸し出すサービス「災害時返却カーリース」も含まれています。
モビリティ・レジリエンス事業は、災害によって車を失った方や支援団体に貸し出す事業です。
車を失うと、通院や買い物などに支障がでます。
移動手段を車に依存している地方ほどその影響は大きくなため、生活再建の推進、支援を目的に行っています。
また、災害を含めさまざまな支援活動に取り組む団体にも、その活動の後押しとなるよう軽トラックや大型のワゴン車などを貸し出しています。
カーシェアリングに取り組み始めたのは、阪神・淡路大震災の時にボランティア団体「神戸元気村」を立ち上げた山田和尚(故人)さんから、東日本大震災発生の翌月、4月に「やったらどうや」と提案されたのがきっかけです。
私は福島で活動していたので、被災者の方々が車を必要としていることは分かっていました。
だから、提案された次の日から車集めを始めました。
当時は運転できなかったんですが、やらなければいけないという使命を感じましたし、車さえ集めたらなんとかなると思っていました。
どういう方が車を寄付してくれるのですか。
色んな方が寄付してくださいます。
タイミングとしては、車の買い換え時が1番多いですね。
良い値段で下取りに出せないのなら、廃車にするくらいなら、社会のために使ってもらった方がいいと判断し、寄付してくれます。
免許返納のタイミングでご協力してくださる方もいます。
まだまだ十分周知されたとは言えませんが、これまで活動してきた中で新聞やテレビに取り上げてもらいました。
寄付してくださる方は、その報道を見て覚えてくださっていたようです。
SPFの2022年度の支援を受けようと思った理由を教えてください。
一つは被災者のニーズを検証するためです。2021年8月に九州北部で豪雨災害が発生し、寄付車を無償で約3カ月半貸し出したのですが、返却の際に「もうすこし借りたかった」という要望を頂きました。
そこで、どのくらいの貸出期間が適切なのか、どういう車種が必要なのか、といったニーズを把握する必要があると考えたからです。
二つ目の理由は、災害時の備えとして車の種類を充実させたかったからです。
私たちの事業は寄付車で成り立っています。
裏を返せば、寄付された車でしか対応できないということです。
そのため、災害時にはダンプや大型のワゴン車などの需要が高まるにもかかわらず、当事者が必要としている車種を手配できずにいました。
より効果的な支援を行うためにも、ラインナップ不足という課題を解決する必要がありました。
あとは拠点を整備するためです。
2020年6月に佐賀県武雄市に九州支部を設立しました。
寄付車は武雄市中心部から離れた場所に保管しているのですが、そこは雨が降ったら地面がぬかるむ上、湿気も多く、長期保管に適しているとは言えない場所でした。
なので、舗装などの整備を行う財源確保のため、休眠預金に申請しました。
休眠預金を使ってどういったことに取り組まれたのですか。
ニーズを把握するため、20団体以上にアンケート調査を実施しました。
その結果、災害時には軽トラックや軽バン、ワゴン車といったモノや人をより多く運べる四輪駆動車、かつ汎用性の高いオートマ(AT)車が必要だと分かりました。
四駆のAT車として、軽ダンプ2台と10人乗りのワゴン車1台、軽トラック数台はありましたので、調査結果を受けて軽バン1台を購入しました。
貸出期間の延長に対する要望については、休眠預金のおかげで財源が確保でき、追加で6カ月間貸し出すことができました。
車は災害が発生した後に必要になります。
ただ、それだけじゃなくて、修繕できた自宅や新たな住まいに荷物を運ぶ時など、復旧後にもう一度車が必要になるということが長期貸出によって見えてきました。
これは生活の再建を支援する上で、大きな収穫でした。
拠点整備も進めることができました。
約50台を駐車できるスペースがあるのですが、そこを舗装しました。
以前は定期的に草刈りをする必要がありましたし、雨でぬかるんだ時は洗車もしていました。
その手間が省けたことで、担当者は非常に喜んでいます。湿気を防ぐことができるので、長期保管の観点からも非常に良かったと思っています。
拠点を案内する看板がなかったので、利用者に認識してもらえるよう看板も設置しました。整備にはお金がかかるので、休眠預金がなければ実現できませんでした。
また、周知、広報活動として車の寄付を呼び掛けるチラシやポスター、協会の事業や利用者の声をまとめた動画を作りました。
チラシやポスターはお店に協力してもらい、貼ってもらいました。
動画はホームページにアップしています。
あとは、グーグル広告を活用したりツイッターのコンサルティングを受けたりしました。
ツイッターは、投稿内容のアドバイスなどをいただいたことで、インプレッションが約1.5倍に増加しました。
フォロワーも毎月獲得できるようになっています。コンサルティングのおかげで、SNSを有効活用できるようになったと感じています。
今後の抱負をお聞かせください。
休眠預金を活用して各種支援団体が求める車種をそろえることができたので、災害時に貸し出し、被災地の復旧、復興を支援する個人、団体のバックアップができればと思っています。
ただ、車種をそろえられたとは言え、まだまだ十分ではありません。
休眠預金で制作したチラシやポスター、動画に加え、ツイッターをはじめとするSNSも活用しながら私たちの取り組みを広め、備えを一層充実させたいと考えています。