<講演採録>子どもの貧困と課題 小河光治氏「あすのば」代表理事
「子は育つ」仕組み必要
「子どもの貧困 現状と課題~なぜ子どもの居場所が必要か」をテーマに講演した「あすのば」代表理事の小河光治さん=佐賀市
「子どもの貧困」をテーマにしたシンポジウムと講演会が9日、佐賀市内で開かれた。子どもの貧困対策センター「あすのば」(東京都)の小河光治代表理事が「子どもの貧困と課題~なぜ子どもの居場所が必要か~」と題して講演した。要旨を紹介する。
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私自身が、貧困の当事者だった。8歳の誕生日に父親が交通事故に遭い、どん底に突き落とされた。
その当時、気持ちを大人に言えたか。学校の先生がいたが、先生は若い。聞いても困るだろうと思い言えなかった。いろいろな状況にある親や子どもたちに出会ってきて今、つくづく思う。本当につらい状況にある人ほど「つらい」と言えない。ましてや子どもは言えない。孤立している。
約5年前、「子どもの貧困対策法」ができた。このキーマンは、肌で痛みを感じ、大変な境遇の中で生きてきた学生たちだった。彼らは「自分は運が良かった」と言った。国が発表した貧困率「14・2%」という数字を見て「声を上げられない子どもたちが全国に多くいる」と立ち上がった。
市民集会やデモ行進をする学生たちを見て「私を含め大人は何をしていかなくてはならないのか」という思いに駆られた。あしなが育英会を退職し、退路を断った。法律ができたからといって子どもの貧困はなくならない。研究者の人たちと「あすのば」を立ち上げた。
活動は「政策提言」「支援団体への中間支援」「子どもたちへの直接支援」の3本柱だ。
昨年度、政策提言につなげるために佐賀を含む全国調査を初めて行った。課題が見えた。例えば(自治体の)就学援助や高校の奨学給付金の利用が6割止まり。調査対象はほぼ100%、就学援助などの対象と重なるはず。だがその情報が伝わっていない。
入学、新生活応援給付金を贈る「あすのば」の事業は年々、対象者も金額も増えている。しかし、増やせばいいのではない。本来は国レベルで予算をつけることが必要で、新生活をスタートするときに困らない制度が整うことが大切だと思っている。
「子どもの支援」といってもいろいろな方法がある。小学校入学時に給付金を受け取った女の子はこう書いた。「私が欲しかった紫色のランドセルを給付金で買ってもらうことができました。本当にありがとうございます」
困っているんだからランドセルがあればいいでしょ、女の子だから赤でいいんでしょ、ではない。保護者からも「自分は見捨てられていない」「思ってくれている人がいる」という声が届いた。
佐賀には全国で先駆的なアウトリーチ(出前型)の支援をするNPO法人が、そして実践が既にある。これをどうやって加速させていくかだと思う。
現代版の新たな「親はなくとも子は育つ」仕組みづくりが必要。親だけではなく「あなたのことが本当に大切だ」という人と出会えるかどうか。そうした大人の一人になっていくことが大切だと思う。