【採択助成事業】
佐賀災害基金
(2023年度:02)
NPO法人「ソシオの杜(もり)」は、精神的・肉体的・社会的な困難を抱えている人に対し、「ソシオエステティック」と呼ばれるケアを通して身体と心をほぐし、本人の生活の質向上を目指しています。通常は、県内外の福祉・医療・矯正施設などで必要な方へのケアを実施していますが、令和5年7月に起こった唐津市の災害時には、現地に赴きました。
今回は当時の様子や、活動において大事にしていることを、代表の江頭裕美さん(以下、江頭さん)に聞きました。
◇その人らしさを取り戻していくための「ソシオエステ」
人は困難な状況に陥った時、誰かとのコミュニケーションなど、自分自身を受け入れる過程を経て回復をしていきます。
”不安な時、誰かにそっと手を握ってもらうと安心しませんか?気分が落ち込んでいて、どうしても気持ちが上を向いてくれない時、誰かとおしゃべりをしてると元気が湧いてきませんか?お化粧をして、鏡を覗くときれいになった自分が嬉しくて、それだけでもわくわくしてきます。”
この言葉は団体HPに書かれているメッセージです。
「ソシオエステティック(以下、ソシオエステ)」は通常のエステと重なりますが、医療や福祉の専門知識を持って、その人が持っている力を取り戻すきっかけを作っています。
約20年前、江頭さんの長男は厳しい白血病の闘病生活を送っていました。
その時、背中をさすると、ほっとした表情を浮かべる姿が印象的だったそう。当時の経験が起点となり、日本エステティック協会を通じてソシオエステの存在を知り、養成講座1期生として資格を取得しました。
「よく、こどもが転んだ時に、お母さんが頭を撫でたり、痛いところをさすったりでしょ。痛いから薬を飲む、のではなくて、癒していくことが大事なの。」と、これまで目の前の人に向き合ってこられた江頭さんの優しい目線でその必要性を伝えてくださいます。
例えば、癌患者の方にスキンケアの仕方や眉の描き方などを教えると表情が明るくなっていったり、精神科に通う方の中には薬を飲まなくて良くなったりした事例もあったといいます。
◇ケアの力を災害現場で活かす
不安と闘うという点において、災害はまさに多くの人が予期せぬ困難を抱えるであろう出来事です。
ソシオの杜(もり)では、平成29年福岡県朝倉市で起こった豪雨災害の被災者をケアするために、1年間仮設住宅に通ったことがありました。
「被災した直後はなんとかしなくちゃいけない、と気持ちが張り詰めているけれど、時間が経つと、不安な気持ちが出てきたりするそうなの。」と当事者の皆さんの声から聞いた、災害だからこその心理状態の変化について江頭さんは話します。
特に高齢の方を中心に、ケアの訪問を心待ちにしていたのだそう。そのような現場のニーズを知っていたからこそ、令和5年に起こった唐津市の災害時にも、社会福祉協議会など現場の対応をしている方と相談をして、被災地の復旧作業に当たるボランティアの方に向けたボディケアを実施することになりました。被災者だけでなく、現場の対応を余儀なくされる方にもケアが必要だといいます。今年の元旦に起こった能登半島地震の被災地でもできることを、これから検討していかれるそうです。
◇誰もがソシオエステを受けられるように
ソシオエステ発祥のフランスでは病院や老健施設だけでなく、刑務所や難民センター、DVシェルターなど幅広い分野でソシオエステティシャンが活動しています。
江頭さんは日本で、まだ認知が広がっていない現状を示唆しつつ、「より対象者を幅広く、自閉症や発達障がいなどを持つこどもたちのケアができるようにもしていきたい」と展望を話します。
しかし、多くの人たちにケアを届けることができるようにするためには、施術できる人を増やさなくてはいけません。
既に実施している講座を通して理解あるセラピストを養成し、誰もがソシオエステを受けられるようにしていきたいと意気込みを伝えてくださいました。
日本エステティック協会で、養成講座が設立された当時、発起人の1人である故シュウ・ウエムラさんは、闘病最中の体で登壇し、受講者に 「誰もが当たり前に癒しを得られるように」とメッセージを送ったのだそう。
取材中、江頭さんは当時の様子を振り返り目元に涙を浮かべながら「あの時の言葉は忘れません」と話す様子がありました。
大事なその言葉を胸に掲げながら、これまで活動を続けられてきたことでしょう。
これからを生きる私たちには、一体なにができるのでしょうか。まずは、ソシオエステを知り、応援することから始めてみませんか。