犬を通じて社会に貢献できる存在を目指してNPO設立
災害に備えた拠点づくり  自治体や支援団体と連携して地域を守る

NPO法人日本レスキュー協会(兵庫県伊丹市、1995年9月1日設立)は、2022年に休眠預金を活用し(コロナ渦での気候変動を起因とする災害対応支援事業として)、佐賀県西部のロジスティクス強化と大町町の支援拠点整備を実施しました。

災害救助犬・セラピードッグの育成や動物福祉に関する事業を行う同法人は、なぜ休眠預金を使って佐賀県大町町で支援拠点の整備を進めているのか、今後どのように発展させていくのかー。災害救助犬トレーナーでもあるスタッフの岡武さんに伺いました。

日本レスキュー協会の活動内容について教えてください。

日本レスキュー協会は「犬とともに社会に貢献する」という大きな1つのシンボリックな理念を持つ団体です。

発足のきっかけは、1995年の阪神淡路大震災で海外から災害救助犬が入ってきたものの、当時の日本にはなかなか定着しておらず、うまく活用されなかったことです。

そういう犬たちが日本にいたらもう少し助かった命があったのではないかという思いから、まずは災害救助犬の育成から始まりました。

その後、セラピードッグと呼ばれる「人を癒す犬たち」に可能性を感じて事業を始めた他、人に寄与できるような犬たちがいる一方で、捨てられたり殺処分されたりする犬たちがいるということで、動物の福祉に関する事業も立ち上がっていきました。

今は災害救助犬とセラピードッグと動物の福祉の3つを大きな柱として活動しています。

また、日本レスキュー協会の本部は兵庫県にあるのですが、熊本地震の時に九州に全然協定がなくて、公的な救助期間と連携が取れずにうまく活動できなかったんです。

そこで九州にも拠点を持った方がいいということで、市民団体が参画しやすい環境がある佐賀県にも支部を設立しました。

少なくとも、西日本と九州で災害が起こった時は我々でカバーできるよう活動しています。

なぜ休眠預金(佐賀災害支援プラットフォーム)の支援を受けようと思ったのですか。

犬も走り回るし、訓練のために色々な現場を想定した施設を作りたいということで、災害犬の育成には結構広い土地が必要です。

令和元年の佐賀の豪雨をきっかけに大町町と進出協定を結び、拠点づくりを進めていましたが、令和3年にまた豪雨が発生しました。

その際に行政や色々な団体と連携していくなかで、これだけ広い土地があるなら自分たちの活動だけに使うのではなく、災害があった時によりスムーズな支援活動ができるような拠点を整備したいと考えるようになりました。

休眠預金を利用したのは、2018年に佐賀県に誘致をしてもらったタイミングで、佐賀災害支援プラットホーム(通称SPF)の前身となる任意団体と繋がりがあったことがきっかけです。

その後2回の災害で連携したことから、支援を受ける流れになりました。

実際にどのような拠点として使われているのですか。

たくさんあるのですが、たとえば災害時に県外から来た支援者の方が滞在できるような施設の立ち上げや、一輪車やスコップなどの資材を保管するコンテナの購入などを行っています。

何か災害があった時は、ここに必要な人や情報が集まってくる。そして、ここから必要なものを持ち出すといったロジスティックのハブになるようなイメージですかね。

あとは、ペットを飼っていらっしゃる方に対して、一緒に避難できる場所を整備しています。

実際、去年の夏に大雨や台風で避難指示が出た時に、何組か受け入れたこともありました。

ただ、星がものすごく綺麗に見えるくらい真っ暗な場所にあるので、夜間に避難してくる方たちが安全に逃げてこられるような設備も今作っているところです。

もしも大きな災害が起きた場合、我々の拠点だけではすべてを網羅できるわけではないと思っています。

そこで、佐賀県や大町町を含めた行政、SPFを含めた民間、あとは社会福祉協議会といった3者の連携を持って、ペットと一緒に安全・快適に避難できる避難所の運営モデルを作ろうと考えています。

そこから近隣に意識が広がって、最終的には佐賀全体の防災力を高めていくことが目標です。

休眠預金を使用して、実際にどのようなことができましたか。

土地を整備して、災害時に活用できる施設を立ち上げていく際に使わせてもらっています。

我々が持っている土地は全部で1万3,000坪ぐらいあるんですが、自分たちだけで活用するなら、正直そんなにお金をかけなくてもいいと思います。

でも、行政や他団体との連携を行ったり色々な人達を受け入れたりすることを考えると、安全性や快適性をある程度高めていく必要があります。

その整備をするには、やっぱり相当お金がいるんですね。

ここ数年、佐賀県では夏に災害が多く起こっているので、休眠預金を使わせてもらってスピーディに整備を進められている点はよかったと思います。

それから、大町町で活動しているパブリックゲートという団体と一緒に、地域住民の方に対して令和元年と令和3年の豪雨災害に関するアンケートを行いました。

その際、パブリックゲートの方が被災された地域を一軒一軒回っていったのですが、そこには相当な経費がかかったと思います。

そこで今回の休眠預金を使わせてもらったことで、通常のアンケートよりも高い回答率を達成し、拠点の課題や今後どういう手を打っていくべきかが見えてきました。

今後の活動や想いについて教えてください。

今回の休眠預金で、地域の方に調査を行いながら、ちょっとした困りごとをお手伝いしたり、ペットと避難できる仕組みづくりを少しずつ実現させることができました。

こういった直接的な支援の他に、この1年で今後に向けた準備が大きく進展しました。

ですが、災害1つをとっても色々な問題が起こるし、同じような災害ってないと思うんですよね。

その時々にやっぱり課題があって、その課題自体も多様化していきます。しかし、大きな災害になると、県外から必要な支援が入ってこない可能性があります。

ということは、いざという時に、自分たちの地域は自分たちで守らないといけないということがあるかもしれません。

現在の拠点は災害の時に役立つと思いますが、普段からSPFを含めて佐賀県内に災害に強い担い手を育成していかないと、自分たちの町を守れないと考えています。

僕は佐賀県出身なので、やっぱり生まれ育った町を守っていきたいという思いもありますね。

今回そのベースを休眠預金によって作れたので、今後は多分今想像していることよりももっと多様な展開ができるのではないかと思っています。

すでに整備された施設があり、ある程度の情報があり、行政や社会福祉協議会などさまざまな組織と連携が取れる。

これらの強みを活かして、色々な課題に対応できる人材が育っていくんだろうなっていう期待を持っています。

最後に、我々の活動は一見犬を中心にしているように見えますが、実はその先には必ず人がいるということに気づいてほしいなと思っています。

災害が起きた時、ペットを飼っている人もそうでいない人も一緒に安全に避難できる、そういった社会を作っていきたいですね。