コロナ禍での気候変動を起因とする災害対応支援事業の実行団体インタビュー
障害のある子どもと家族が安全に避難できるために
福祉避難所の設置に向けたアンケートの実施とアプリを開発
放課後デイサービス「ガラパゴス」にて障害を持つ子どもたちの支援をおこなっている株式会社RIGHTPLACE(2019年3月28日設立・佐賀県)は、2022年度の休眠預金を活用し、避難場所に利用できるモデル福祉事業所の構築に取り組みました。
なぜ今回の休眠預金に申請し、どのような思いで活動をおこなってきたのかー。
もくじ
まず、株式会社RIGHTPLACEがどういう会社か教えてください。
株式会社RIGHTPLACEは、2019年3月28日に佐賀県で放課後デイサービス「ガラパゴス」を立ち上げました。代表の小柳氏は長年にわたり人と接する仕事をしてきましたが、障害を持つ子どもたちをサポートする事業を始めたいという思いで会社を設立しました。
ところが、事業開始から5ヶ月後の2019年8月27日から28日にかけて佐賀県では豪雨が発生し、事業所が約140センチ浸水して使用できなくなってしまいました。復旧は12月までかかりました。
そして2020年8月にも大雨が発生し、今度は事業所が150センチ以上浸水してしまいました。
事業所は復旧したばかりでしたが、再度使用することができなくなり、一度は事業を終了することも考えました。しかし、関係各所からのご支援により、8ヶ月後に事業所を再開することができました。
放課後デイサービスに注目したのは、代表の小柳のお子さんが2人とも障害を持っていたため、放課後デイサービスの事業所をたくさん見学したという経緯があります。
ただ、どうしても合わなかったり、いいなと思っても受け入れをしてもらえないといったことがあり、それなら放課後デイサービスを自分で作った方がいいと思ったのが最初のきっかけです。
他の放課後デイサービスと比べて、ガラパゴスの特徴は何ですか。
障害児、つまり利用者に1番の重きを置いているところです。利用者を断らないのがモットーです。
断るには様々な理由があると思いますが、その理由は周りの理解がないために起きてる本人の問題行動なんです。
例えば、スタッフやお友達を叩く、蹴る、物を投げる、壊すなどの「他害」という行動があります。しかし、これはきっと本人が困ってる理由があって、怒ったり悲しんだりして問題行動が起きているはずなんですね。
そこを理解して支援すれば、他害が出ないんじゃないかと考えています。
また他社だと、他害が多いんでうちとの契約は切らせていただきます、といった話があるんですが、それだと何のためにサポート支援福祉をやってるんだろうと思うんです。
うちとしてはそこに疑問をもって活動していくことが、他社との違いだと思っています。
今回、休眠預金の支援を受けようと思った理由は何でしょうか。
1つは、2回の水害の際に支援をしている子供たちが避難できなかったことです。
自治体から警報が発令されていたにも関わらず、自宅の1階が完全に水没してしまった家庭や、裏手が山で崩壊の危険性がある家庭などが避難できなかったことがわかりました。
特に、精神的な障害を抱える子供たちは、誰がいるかもわからない騒がしい避難所に行くことができず、保護者も「迷惑をかけてはいけない」「この子を連れて避難することはできない」という理由から、避難することを断念せざるを得なかったケースがありました。
このような状況を危惧し、水害や土砂災害が発生しない安全な高台に、精神的な障害を持つ子供たちが安心して過ごせる福祉避難所を準備することが必要だと考えました。
そしてもう1つが、不登校支援を行うためです。何かしら問題を抱えていて、学校に通えない子供たちがいます。ただ単に「行け」と言って促すのではなく、何が問題なのかを観察して把握して、家での準備や学校の受け入れ体制を総合的に見ることが必要です。
そのために不登校支援をしたいと考えました。
ただし、うちの放課後デイサービスは学校に通学していることを前提にしているため、学校に通えていない子供たちが利用することが難しいという課題がありました。
そのため、学校に通えるように支援を行いたい。ただ活動費をどうするかを悩んでいました。
この2つをひっくるめて、今回の休眠預金を利用して、障害者支援を取り巻く環境をサポートするモデルを作ることを考えたのが理由です。
この休眠預金の支援を受けてできたことを教えてください。
アンケートの実施とアプリ開発の2点が大きかったです。全国の自治体を対象にアンケートを実施するため、専門のデータ収集サービスを利用しました。
当初、福祉避難所を設置するための物件探しをしていましたが、その後、維持することが難しいことがわかりました。
そこで、既存の避難所に避難できなかった理由を調査し、全国の行政に向けてアンケートを実施することにしました。アンケートでは、精神障害を持つ方が避難する際の配慮についてヒアリングし、その結果をもとに自治体に働きかける予定です。
困っているという声を上げていくことが必要です。
福祉避難所の設置には、行政の支援が必要です。しかし、単に要望を伝えるだけでは十分ではありません。
そのため、アンケートの結果を数字で示し、自治体に相談することを第一歩としました。
また、障害児が避難所に避難した場合、支援やケアの方法がわからないことが課題でした。この問題を解決するために、障害者用の避難アプリを開発しました。
アプリには、自分の名前、住所、障害名、障害者手帳の有無、家族構成などの基本情報を登録することができます。
さらに、小さな声で話したい、目の前に人がいないでほしい、騒音や光に敏感であるなど、自分の特性について説明することができます。
このアプリは、避難所だけでなく、学校の先生や近所の人、病院のスタッフなど、さまざまな場面で活用できることを目指しています。
今後やりたいことや、大切にしたい思いについて聞かせてください。
まずは避難所作りです。例えば、保護者と障害者が一緒に暮らしている場合、誰かがストレスを抱えてしまうことがあります。
また、6人や7人の家族の場合、障害児以外のご家族の感情や思いが異なることもあります。
お母さんが頑張っているのにお父さんが理解してくれなかったり、おじいちゃんやおばあちゃんが冷たく接してくることもあります。
そこで、ストレスを解消するためにホテルのような避難所を作りたいと考えています。
この避難所は、ご家族から少し離れて週末を過ごし、気持ちを理解してくれるスタッフに話を聞いてもらえる、そして子供の支援も受けることができる。
そんなリフレッシュできる場所を提供したいと考えています。また、この避難所を全国的に利用できるように、情報発信を行う予定です。
もう一つは、自立支援に力を入れたいと考えています。児童福祉法では、守られる年齢は18歳までで、その後は社会に出ることが求められます。
しかし、社会に出ることは容易ではなく、自立支援が必要です。そのためには、その人の特性に合わせた仕事を見つけてつくることが大切です。
適した仕事をつくることで、社会的な意義や生きがいを感じることができ、適切な給与も得られると考えています。
現状では、どこかで就職できる場所を探すしかない場合が多く、生きていくことが難しい人も多いのが実情です。
そのため、その子に合った仕事をつくることを目指しています。
障害者支援法という法律で守られた時代ではありますが、社会的な理解はまだまだ不十分です。障害者が笑顔で過ごせる社会が最終目的です。
誰しも生まれたからには、社会的な役割を担うことが幸せであると考えています。
そのためにも、今回の支援でやりたいことの実現へと前進できたことで、彼らが1歩でも2歩でも進めるならいいと思います。