こだまの富士(さと)倶楽部は有明海の環境保護や維持を目的にその水源である佐賀県の森を守るため、様々な取り組みをしています。
活動の1つである有明海の漁業を営む人たちとの植樹活動は今年で19年目。長年に渡りチャレンジをし続けているのは、代表の山口勝也さん(以下、山口さん)です。
山口さんに活動に懸ける思いや現在の取り組みについてお伺いしました。
◇佐賀の海苔は佐賀の人工林が育んでいる
佐賀県の森林面積は約45%。そのうち人の手により植栽された森林である人工林比率は*約67%(*平成29年林野庁調べ)と、全国一位となっていることを知っていますか。
19年連続で全国一位の生産量を誇る海苔が佐賀県の名産品であることは周知の事実でしょう。
そんな有明海の広大な干潟で収穫される海苔は、長年に渡って守られてきた森から、ミネラルをたっぷり含んだ豊かな水で育まれています。
ところが今から約20年前、有明海の海苔の不漁がニュースに取り上げられたことをきっかけに自分事としてその問題を捉えたのが山口さん達でした。
「まち」の環境問題を自分たちで考えようと”有明(たから)の海も天山の一雫(いってき)から”をテーマに掲げて活動を始めました。
◇多くの人に環境について考えてもらうきっかけを作りたい
海で生きる生物にはミネラルなどの栄養豊富な水が必要です。
その栄養豊富な水は、豊かな森林を持つ山から生まれることから、山を取り巻く環境を良くすることが有明海の再生に役に立つと考え、2003年から植樹活動を続けています。
また、山口さん達は環境についてより多くの人に知ってもらうために「農家民泊」や「古湯の森音楽祭」等、様々な活動をこれまで企画してこられました。
「特に印象的だったのは古湯の森音楽祭の開催終了時、声掛けをしていないにもかかわらず参加者一人ひとりが自らゴミを拾って帰ってくれたことです。
環境について考え、行動にしてくれたその姿に心を打たれました。」と嬉しそうな表情で山口さんは話します。
一方で、課題もあります。林業を仕事にする人の高齢化が進み、減少傾向に。
「問題は後継者不足。間伐が行われないことによって荒廃林になってしまい、木の価値が下がってしまうと外材に負けてしまいます。
そして、そのような森林が猪などによって荒らされ、水害にも繋がるのです。」と代わって深刻に伝える山口さん。
新しい世代に興味を持ってもらったり、知ってもらったりするきっかけは今後も必要だといいます。
◇約20年間の取り組みを続けてきた、こだまの富士(さと)が抱える課題
様々な活動に取り組んできた、こだまの富士(さと)が抱える課題は資金面やかかわる若い人がいないこと。
行政からの協力を得ながら続けてきましたが、その過程で資金面を理由に離れていった人もいたといいます。
また、かかわる人も徐々に歳を重ねていっており、先を見据えて継続した活動を続けるためには若い人の力が必要です。
「地道に声をあげ続けると、困っている誰かに届くと思っています。」と意気込む山口さん。
先日には、佐賀市富士町の住民より「川上峡付近の桜の木が昔は綺麗に咲いていたが、今では蔓や蔦によってその景色が失われてしまっている」と相談があったとのこと。
その声をきっかけに今年は桜の木を守るプロジェクトとして動き出し、桜吹雪の景色を取り戻していくために活動をする予定のようです。
団体名の「こだま」の部分には、自分たちの活動が相手に届いて返ってきてほしいという願いが込められているそう。
「こだまは誰かが声をあげない限り返ってこない。
だから、先ずは住んでいる人たちの声を自分たちが代弁できるようになっていきたいです。」とこれからの抱負を伝えてくれました。
自分たち1人ひとりがが住むまちのことを自分事として捉え、これからの環境に考えを寄せることができる人が増えていくことを願います。