「こども宅食応援団」を、佐賀県につくりたい。そう思わせた「漢」の熱き思い。

今回は佐賀でこども宅食応援団をスタートするにあたり、現地で様々な調整をしてくださっている佐賀未来創造基金の山田健一郎さんに、こども宅食への思いをうかがいました。

「佐賀のために」

その熱い気持ちで、私達を支えてくれる山田さん。

問題と向き合い、地域で支え合い、次の世代へバトンを残す──山田さんのあふれる思いとは。

── 佐賀県は、NPO等の市民活動団体(※CSO)誘致(以下、CSO誘致)に力を入れられているそうですね。

※Civil Society Organizations(市民社会組織)の略で、NPO法人、市民活動・ボランティア団体に限らず、自治会、婦人会、老人会、PTAといった組織・団体も含めて「CSO」と呼称しています。

山田:佐賀県は2010年に日本で初めて、官民ともに地域への創意工夫活動が活発である地域を表彰する「国連公共サービス賞」を世界的に受賞するほど、これまでも市民活動が活発でした。

市民が行政に依存するのではなくて、市民と行政が対等な立場でお互いに役割を補完し合いながら佐賀をよりよくしてきた、というのが佐賀の歴史であり地盤。それは長く佐賀県で活動されているCSOの方々の熱量のおかげでもあります。

ただ、現代の課題は多様化しています。県内全ての地域や課題に対して完璧に対応できる万能なCSOが県内をはじめ全国にも存在しえないのは当然のこと。

課題解決をするために市民、行政、企業、中間支援組織、市民コミュニティ財団、そして県外から必要な力を県内に誘致して「オール佐賀で佐賀県をよくする」という考え方が大事なことだと思っています。

── そういった中で佐賀未来創造基金とは、具体的にどのような活動をされているのでしょうか?

山田:私たちは市民コミュニティ財団として、県内外の個人や企業の方々から寄付などの支援や資金を集めてCSOへ助成することをはじめとした「人・もの・金・情報」などの資源循環やアライアンスを通じた課題解決や新しい価値の創造をすることで佐賀県をよりよくする、地域に根差した市民性と社会性を大切にする市民コミュニティ財団です。その活動のひとつとしてCSO誘致で佐賀県にいらっしゃった方々への支援もしています。

どんなに優秀な方々や団体であっても、知らない土地に来て、いきなり事がスムーズに進むとは限りませんよね。彼らに100%の力を発揮していただけるように、大なり小なり様々な支援をします。

たとえば事務所や住居探しから、コラボレーション事業や合同イベント、資源仲介などから、ひとりで孤立しないようにシェアオフィスを創って一緒に働いたり、事務作業の実務などをお手伝いをしたり、日々の相談に対応するなどの細かなことまで。佐賀で活動されているCSOの方々と連携しながら、地域コミュニティや人などのつなぎ役を担っています。

── 佐賀をよくするために、力を合わせようと。

山田:そうです、目的は「佐賀をよりよくする」というただひとつです。

佐賀県は人口82万人ほどに対して約2,000のCSOがあるといわれています。県民の気質としても、行政が決めた制度に対してCSOなどが協働で実施しながらよりよい改善を促していくことを同時にやってきた素晴らしい地域ですが、課題が多様化していく中で、県内CSOだけで課題解決をすることは現状では非常に難しくなってきています。

それは人口の多い東京も同じことです。地域の課題を解決することを目的に、ベストパートナーと組む。私たち市民は行政区に縛られるのではなく日本全体で物事を考える、と言うと大げさですが、志さえ一緒であればシームレス(越境)にパートナーを見つけて、一緒に育ち合いながら地域の課題に立ち向かっていけたらいいでなはいのかなと思っています。

── そうした考えを持つきっかけはあったのでしょうか?

山田:東日本大震災の時に、佐賀のCSO同士もお互いに連携して東北のために助け合う、という姿はとても印象的でした。

熊本地震や北部九州・西日本豪雨の際には、私たちが助けられることもありましたし、災害が起きた地域のことを思って、すぐにCSO同士が連携して物資を集めたり、現地にボランティアとして駆けつけることも今では当たり前になっていて、「地域のために」と志同じ同士であれば地域や団体の境目がなくなっているということを原体験として感じることができました。

── これまでCSO誘致された中で、効果を感じた事例は?

山田:誘致CSOの方々が来てくれたことで、徐々にですが地域にとっての新たな刺激や化学反応みたいなことは起きているのではないかと感じています。

たとえば熊本の震災があった際には、誘致CSOのPWJ(ピースウィンズ・ジャパン)とA-PAD(アジアパシフィックアライアンス・ジャパン)と一緒に災害支援活動をやらせていただきました。

佐賀県でも地域の自主防災や災害支援団体はありますし、県内団体でもしっかりと連携してやってきましたが、彼らの人命救助や復興支援のための使命感やスピード感などは我々の感覚とは大きく違いました。

彼らは発災直後から現地に入っていけるようなスピードと平時のトレーニングを含めた、まさに日本でもトップレベルの準備をしているんですね。

それに災害対応のノウハウをはじめ、その実績や支援機関との繋がりや信頼関係の蓄積もありますしね。

もちろん、私たち佐賀メンバーが元々持っているよさもあります。

現地のニーズをPWJがすくい上げて県内外で資源調達を応援する活動も一緒にしましたし、現地ボランティアの人数やスキルが足りないと相談がくれば、すぐに佐賀県内外によびかけて人集めをするだけでなく、集まったボランティアの方々のレクをしたりコーディネートする力が必要だったので、PWJと一緒に緊急のボランティア養成説明会のようなものを一緒にやって、現地に送り出していました。

CSO誘致制度は、私も最初は少し懐疑的で「既に県内の素晴らしい団体や支援の仕組み、そして団体連携をやっている現状で、それに加えてわざわざ誘致の団体と一緒にやる意義がようわからんなあ」と思っていたのですが、実際に目の前で力を合わせることで助かる命があり、喜んでくれる人たちがいることを肌で感じて、今までとは違うスキームで物事が動くことも実際に経験して考えが変わってきていますね。

彼らが持っている、ノウハウやスキル、スピード感、そしてファンドレイジングに対する考え方などはとても勉強になりました。

A-PADさんが言っていたのは、「寄付集め開始が1時間遅れるだけで約300万円の寄付の機会がなくなります」と。ひとつひとつのスキルにしても、スピードにしても、私たちが今まで考えていた常識とは違うことを間近で学びましたし、これを自分たちが吸収して「チカラ」にできれば、僕たちのスキルや目指すべき団体像の目線がもっと上がり、よりよい佐賀づくりにつながるんだろうなと感じています。

── みなさんは、佐賀のリソース(地域資源)を知っているという強みがあります。

山田:そこは大きな強みですよね。先ほどの災害時の連携など、佐賀で生まれて、そして死んでいくような地元の地域の人たちがハブになりつながることが大切なポイントですね。何事も信頼関係がスタートで、そこから問題解決が進み佐賀がよくなるのであれば、それは地域にとっても、CSO誘致で来た団体にとっても双方のプラスになることだと信じています。

いまPWJは佐賀の地元の工芸家さんたちとつながって伝統工芸の復興をされていて、今までにない活動として価値が高まっていますし、難民を助ける会さんやブリッジフォースマイルさんも地域の教育機関などで講演会をして県内の子どもたちに国際理解を広めてたり、地域の児童養護施設やボランティアの方々と連携しながら佐賀を一緒によりよくしようとしてくれています。

── すこし話が変わるのですが、そこまで「佐賀のため」という思いが強い個人的な理由やきっかけをうかがってもよろしいでしょうか?

山田:なかなか聞いてもらえないのでうれしいです、ありがとうございます(笑)。

幼いころは都会にものすごく憧れていて、大学は東京に出たんですよ。サッカーが得意だったので大学に進んでからプロテストを受けたのですが受からなかったんです。相当ショックで人生に迷い途方に暮れて、一時期はホームレスになったほど。

その時に助けてもらったのが、NPOの方々でした。おもしろい人たちで、あーいいなあって。

佐賀に戻ってからしばらくは中学校、高校の先生をしていました。

学生時代には知らなかったけれど、学校の先生として不登校の子どもたちと接していくと、今まで見えていた世界とまるで違っていました。佐賀にもNPOのフリースクールがあることを知り通うようになりました。

NPOなどは東京にしかないわけではなく、地域にも素晴らしい活動や団体がたくさんあることを知り、佐賀での可能性を感じるようになりました。そして僕も、地域で人生をかけて地域で活動している人たちと一緒にやりたいなとなんとなく思うようになりました。

── 学校の先生から現在の団体に入られたのは?

山田:教育や環境、福祉、そして佐賀県行政のCSO支援や協働担当職員などいろいろな分野や立場としてCSOや協働、そして地域に携わらせていただきました。

現場の方々は素晴らしい活動を一生懸命にしていらっしゃるのですが、それでもなかなか突破できない壁があるんですよね。

そんな時に地域のそれぞれの団体を後押しするような存在が行政や企業以外にも必要だと思った時に、自分自身が支援者として現場の方々と共に進んでこうと決めました。

個人的には現場のほうがやりがいもあり感謝を直接実感できますし、現場の大切さや尊敬の念というものもいつも持っています。

ただ、ひとつの団体だけでなにかを成し遂げるというのはかなり難しいと思っていて、もっと横断的なつながりや支援の仕組みなどが必要ではないかと考えて今の活動に取り組みはじめたんです。

── 佐賀をどういう風にしていきたいか、山田さんの中ではどのようなビジョンを思い描いているのですか?

山田:漠然としていますが、みんなが助け合える、支え合う地域にできたらいいなと思っています。そのために私たちはセクターや団体同士をつないで、サポートしていきたいですね。

自分の年齢が40歳を超えてからは「地域の持続可能性」については更に意識が高まってきている気がしますが、私たちは次の世代にしっかりとバトンをつなぐ役割だと最近特に実感しています。子どもにとって素敵な佐賀、優しい佐賀、よりよい佐賀の未来を子どもたちにも残したいなと思っています。

これまでも、志半ばで辞めてしまったり、自ら命を絶つような仲間も見てきています。改めて大変な仕事だと改めて感じるとともに、自分自身の力不足からの悔しい気持ちと、彼らの思いも受け継いで本気でやり続けたいという気持ちで覚悟をもってやっています。

長いスパンで考えると物事は内側から変わっていくので「子ども」や「教育」は地域の未来を変えていくキーポイントだと思うんですよね。それは先生時代にも感じた活動の原点かもしれないです。

── 最後に、こども宅食を佐賀でスタートすることに関して、どのような思いを抱いていますか?

山田:特化した分野において専門性の高いCSOが佐賀に来てくださるというのは、ありがたいと同時に双方にとってもひとつのチャレンジだと思っています。

課題に対して、足りないことをお互いに本音で話し合って、佐賀の地域にとってよりよいソリューションを生み出し、そして少しでもよい結果や成果(インパクト)を出せるといいなと思っています。

佐賀にもこども宅食のような事業も、少なからずありますが、現状では地域の困っている方々全てにその活動が行き届いているかというと残念ながらまだまだ難しい状況だと感じています。そこにこども宅食の資源やノウハウを得られれば、佐賀県の中で助かる人はもっとたくさんいるんだろうと思っています。

あとは、届けるだけじゃない、というのがすごく大事なことだと考えています。

食品を届けるだけでなく、その先にどのような支援がつながって、地域がどうなっていくのか。「アウトリーチ(訪問型支援)」のNPOスチューデント・サポート・フェイスなどをはじめ、佐賀の地域のCSOの皆さんときちんと連携して、「佐賀版こども宅食」のようなものがちゃんとできて、広がっていくと、さらによりよい事業になるのではないかと期待しています。

── ただ「こども宅食」のサービスを広げるだけでなく、広いインパクトを求めているんですね。

山田:私たちは単にノウハウだけが欲しいわけではなくて、誰がどのような想いで始めたのか、いかに広げていくべきかなどの原点である思想的な部分も知りたいし学びたいと思っています。

その中で信頼関係を築きコレクティブインパクト型の連携事業が進んでいくことで地域がよりよくなることをおおいに期待しています。

もともと、佐賀にも「おなか一杯便」さんや「スマイルキッズ」さんのようにこども宅食をやりたいと仰っていたCSOもあったので興味を持ったのですが、新たに佐賀をモデルに必要に応じて全国に拡げていくという展望もいいですよね。

制度もソリューションも一緒にブラッシュアップしながら、佐賀に限らず必要とされる他の地域とも連携してより良い仕組みを広げていっていただければと思っています。

あとはお世辞でなく、みなさんの取り組む姿勢もすごいなと思っています。

都会の怖い人たちかと思っていたら(笑)、一生懸命に、現地に何度も足を運んで丁寧にやってくださる姿をみて、これなら一緒に佐賀の地域に足りないことを考えて佐賀のために汗をかいてくださるだろうなと思いました。

── ありがとうございます。幼いころは都会に憧れていても、今は佐賀が大好きという山田さんの思いが伝わってきました。

山田:私は佐賀が大好きですし、場所や地域へのこだわりもありますが、なによりも心触れ合っている大切な仲間や先輩たちとそれぞれの活動を通した地域への想いがより強いのかもしれません。

佐賀が好きだからこそ、地域そのもにこだわるのではなく、地域の課題を解決するために、次の世代に残せる仕組みや仲間をつくる。そんな横断的なつながりをつくっていくのが私たちの役割。

自分たちの地域や活動に誇りを持っていますし、自分たち自身も皆さんと一緒に地域の大切なリソース(地域資源)のひとつになれるよう、これからも共に応援しあっていけたらと願っています。

これからは佐賀の仲間として改めてどうぞよろしくお願いします。

(構成/羽佐田瑶子)

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