ぽっぽ・わーるど(鳥栖市)は、子育て中のママに寄り添う活動をしているNPO法人です。
代表理事の藤さん、副代表理事の久保田さん、事務局長の服部さんのお三方にお話を伺いました。
「子どものためには、ママたちの精神的な安定が大切」
運営メンバーは全員が子育てを経験し、その中で得られた気づきや思いを、今なお奮闘しているママたちへと伝えています。元々「鳥栖子ども劇場」として発足し、2001年に現在の法人格を取得。以来、おしゃべり会『ママかふぇ』や託児付きのイベント『ママ部活』などを開催することで、育児中のママたちが抱える複雑な気持ちを傾聴し、心をリフレッシュするきっかけを生み出してきました。
ぽっぽ・わーるどが発行する子育て応援交流誌「ぽっぽ・かふぇ」(現在休刊中。来春特別号発行予定)には、運営メンバーからママたちへ贈られた温かいメッセージが詰まっています。副代表理事で編集長の久保田さんが「自分たちも反省することはたくさん。でも、今思えばたいしたことないんですよ(笑)」と話すように、乗り越えてきた方たちだから書けるコラムは、体験談と失敗談の宝庫。加えて、読者から寄せられたお便りも心情を表すものばかりで、読者は共感する言葉や一文がきっと見つかるはずです。悩みを抱えている方にとって、自分だけじゃない、みんな同じなんだと思えることが、どれほどの救いになるか知れません。
親も子も一人ひとり違う子育てだからこそ、より多く、誰かの体験に触れる機会が必要なのではないでしょうか。ぽっぽ・わーるどが綴る“生の声”は、きっとインターネットも及ばない。誰しも探している言葉があって、そこに辿り着いて初めて癒される心があります。「もっと他の人と知り合いたかった。子育て中は話す相手もなかなか・・・」と話す久保田さん。みんなの経験を一人でも多くのママたちに届けたいという思いから、情報誌という形を選びました。
「昔は、どこにでも”おせっかいおばちゃん”がいましたよね」
鳥栖市は企業の支店・営業所や工場が立ち並び、福岡へのアクセスもよいエリア。発達した都市とベッドタウンの性格を兼ね備えたまちには、いわゆる転勤族の方が多く暮らしています。いずれ離れるまちで暮らし、もし子育てに追われていたら、いつのまにか誰かと話すことをあきらめてしまうかもしれません。近所にいつでも声をかけてくれ、気にしてくれるおせっかい(親切)おばちゃんがいた時代ではないのです。
運営メンバーはいずれも鳥栖市外の出身で、みんな子育て中に誰とも話せなかった経験があると、代表理事の藤さんは言います。地域に既にできているママたちの輪、そこに入っていくのは簡単ではありません。それでも、事務局長の服部さんは「人を見かけたら、アパートの3階から外階段をダーッと子どもを抱えて走り寄っていきました。『こんにちは!』って。とにかく話したい一心で(笑)」と、規格外のエピソードを披露してくださりました。
「私たちも経験しかありません。実家のお母さんに話すようにおしゃべりしてもらえるような場所になれたら」
取材中、お話の節々に”さみしい”という言葉が聞こえてきました。ママ同士の輪に入れない、混ざれない、話し相手がいない。それはインターネットでは埋められず、子育て中に感じるのは苦労よりもさみしさだとも。今は子育て支援を謳う場所がいろんなところにあって、SNSが普及し、コミュニティづくりのできる機会は増えました。しかし、そこに加わっていけない方たちは必ずいます。ママ友と友達もイコールではありません。
決められた器に収まるのが苦手な方たちにとって、気楽に話せる母親のような存在がいたらどんなに助けられるでしょう。もうさみしくないし、つまずくことがあっても再び前を向けそう。
「ここに来なくなったら、ああ友達できたんだな、よかったなって。さみしいけど」
ぽっぽ・わーるどの事務所に飾られているお便りを拝見すると、転勤され鳥栖を離れた方も含まれていました。いろんな土地で暮らして、ふと立ち止まったとき、良かったなって思い出すのがぽっぽ・わーるどで、鳥栖というまちだったら。それは将来にわたって輝きつづける地域の宝です。
皆さんに今後の目標を尋ねると「地道にママの心を癒せる場所をつくっていきたいです」とお答えくださいました。もっと資金を集めてもっと発信したら、いろんな人に知ってもらえる、だけども自分たちのできる範囲を超えてしまうと、ママたちに寄り添えなくなる。ぽっぽ・わーるどは、初心を忘れずに活動を続けていきます。
「自分たちの特性を活かしていけたらいいな、地域のおばちゃんとして」
経験はあっても決して押し付けず、三者三様のスタンスでそっと話を聞いてくれる場所って、なんて贅沢なのでしょう。
取材スタッフは、また何の用事もないのに事務所を訪れる予感がしています。再び三人の”地域のおねえちゃん”に会うために。