武雄市で子どもたちの居場所づくりを続ける「よりみちステーション」。
市中心部に位置する活動拠点『くむくむ』へお邪魔して、代表の小林さんからお話を伺いました。
よりみちステーションは、2012年に当時5、6名の母親たちで活動をスタート。
きっかけは、小学生の放課後を取り巻く環境でした。
下校時間が遅くても「宿題をしてから遊ばないとだめ」だったり、友達と約束をしようにも「家に大人がいないときに友達を呼んだらだめ」だったり。
「時間、空間、仲間の”サンマ”がありませんでした」と小林さんは言います。
授業が終わる夕方から暗くなるまで、わずかな時間にさえ遊ぶチャンスを見つけられない子どもたち。
そんな状況で「放課後児童クラブに行かない子どもも集まれたら・・・」と、週に一度、公民館で実施するようになったのが『ぼちぼちや』です。
小学生が中心の居場所づくりで、当初は会費制でしたが3年後無料になりました。
手探りで始めた当初、お試しで開催したら30人もの子どもたちが集まったそう。
まさに眠っていたニーズが可視化した瞬間と言えるのではないでしょうか。
『ぼちぼちや』の名前には「”ぼちぼち”があるから、ここぞってときに頑張れる」という思いが込められているそうです。
――――“地域”が、学校に出かけていって触れ合う。
小林さんの居場所づくりは学校の中にも広がっています。
よりみちステーションのもう一つの事業『てくてく』は、中学生と乳幼児、その親たちの触れ合いの場を生み出しました。
元々は佐賀県の「赤ちゃん力!みんなの元気応援事業(2013年)」で採択され、委託事業を終えた後も自主的に継続されています。
兄弟がいる家庭を除くと、中学生が赤ちゃんと接する機会は希少。
そのままでは、子どものかわいさや愛しさなど子育ての良いところを知らずに、ただ大変なものというマイナスイメージが付いてしまいがちです。
早くから触れ合うことで「赤ちゃんを”こわい”という意識も解消されて、また自分自身が親からこんな風にしてもらったんだ、ありがたかったな、と気付いてもらえます」と小林さん。
親から受けた愛情の再確認は自己肯定へと繋がり、思春期とその先の人生の屈折と対峙するうえで、大きなちからになりそうです。
「つっぱっている生徒が、赤ちゃんの扱いが上手だったりするんですよ」と、笑って話す小林さんでした。
「ルールは、人やものを大事にする。それだけ」
取材に訪れた『くむくむ』は子どもに限らない、みんなの居場所。
民家を一軒使ったスペースの玄関を開けると「お邪魔します」よりも「ただいま」と口にしたくなる、そんな雰囲気が漂ってきました。
お話を伺った居間はきれいに片付けられていながらも、子どもたちの遊び道具と利用者の残した足跡が随所に。
メッセージボードになっているカーテンを日差しのバックライトが照らし、訪れた人の思いを立体的に浮かび上がらせています。
この居場所に細かいルールはありません。
異世代で集う場所には協調性を不安視する声も聞かれますが、利用者の間にトラブルはないそうです。
『くむくむ』に来るのは「自主的に、来たいから来る子たちです」と小林さん。
自分が好きな場所は自分も大切にする、それは隣の人も同じ。だから周りにも気配りができる・・・。
それが、誰かに「行きなさい」と言われて来る場合との明確な違いと言えるのではないでしょうか。
「もっと広い世界を見せてあげたい」
居場所に来る子どもたちは、それぞれが過ごしたいように過ごしています。
そっと見守る小林さんですが、話したいことがある子に寄り添うことも。家や学校でのちょっとした出来事に耳を傾けているうち、だんだんその子の中で整理ができてきて、落ち着いて自宅へ帰っていくと伺いました。
こんな風に、親でも先生でもない大人に話を聞いてもらえる子どもは、決して多くないはず。
子どもたちが小林さんに話すこと、きっとそれは他の誰にも、他のどこにも打ち明けられなかった気持ちです。
小林さんは「事件が起きる手前で、愚痴でいいから小出しにさせてやれたなら、子どもたちの苦しみを軽減できるのでは。ここには友達がいる。
わかってくれる。人生おわらんけん!」と、力強くエールを送っています。
テレビの取材を受けた際、居場所に来ている子どもが「一番安心できるところ。大切なところなんだ」と答えたそう。
小林さんは「居場所づくりをしているけど、居場所かどうかは子どもが決めるもの。そうなったらいいなって思ってやっていました」と笑顔。子どもからもらう”一番”は、大人からのどんな評価よりも嬉しかったことでしょう。
それは、子どもたちがやっと辿り着いた居場所、今まで知らなかった世界。よりみちが、目的地になっていく。
「あるのが当たり前。大人の都合でやめられないし、やめたくない」
活動10年目を迎えた『よりみちステーション』の居場所づくりを、どうかご支援ください。