唐津放課後児童支援員会(唐津市)は、児童クラブ(学童)に勤める支援員で構成された任意団体です。運営している子どもの居場所づくり『じゃんぷ』にお邪魔して、コアメンバーの田中さんにお話を伺いました。
現在、各地に52の児童クラブが設置されている唐津市。田中さんたちは支援員の資質向上を目指し、また「横のつながりがほしい」と集まって、定期的な勉強会や研修を行っています。全国規模のフォーラムにも積極的に参加し、田中さんが講師を務めることも。
2015年にスタートした放課後児童支援員の資格制度は、一定の基準を設けることで枠組みを整えたものの、子どもたちが受ける支援自体を改善するものではありませんでした。そのような「現場感」のなかで生まれた唐津放課後支援員会。自己研鑽とともに、児童クラブではない子どもの居場所づくりを実践することで、より多くの子どもたちの声に応えています。
「児童クラブを休んで、こっちに来る子もいます」
田中さんは児童クラブに通う子どもとのコミュニケーションから、そこに姿を見せない子どもたちの存在を意識します。学校へも児童クラブへも来ない子どもたちと会いたい、そんな思いから 佐賀未来創造基金 の助成を活用した居場所づくり『じゃんぷ』を始めました。それは児童クラブの支援員としてではなく、組織の外だからできること。仕事を超越したひたむきな行動は、どんな景色を生み出したのでしょうか。
―――命をつなぐ場所。
『じゃんぷ』は児童クラブと異なり、18歳までを対象としています。当初、児童クラブが合わない子が来るものと思っていたところ、中学生の利用がとても多く「異年齢での交流が生まれています」と、田中さん。取材時も、数人の中学生が「ただいまー」とやってきて、カバンを置き、お菓子をつまみ、遊びはじめました。ヘッドフォンを首にかけシャカシャカとヒップホップを鳴らす今風の装いも、支援員さんの用意したスライムに夢中になりだす様子が、繊細な年齢を映しているようでなごみます。
盛り上がる子どもたちを見守る田中さんが、そっと教えてくれました。「児童クラブ時代に家庭の問題を抱えた子が今『じゃんぷ』に来てくれています。まるで ”ちゃんと大きくなったよ” って言ってくれているみたいで・・・」
田中さんは再会が嬉しくても、その間に起こった家のことは聞きません。「子どもから話してきたら聞きます」という姿勢が、優しくて温かくて、ちょうどいい。だからまたあの子はここへ戻って来るのでしょう。この『じゃんぷ』の”見張らない距離感”が、子どもたちの居心地を決める重要なポイントなのです。
「大人の目がないところで、想像力は育まれます」
子どもたちが集まる場所、すなわち大人の目から逃れられる場所。それは生きていく体力をつくることや危険を回避する力をつくる大事な要素だと、田中さんは教えてくれます。なんでも知りたがってコントロールしたがる大人の包囲網を、果敢に突破を試みては失敗するのが子どもの仕事なのに、その機会は失われる一方。
「昔は、よく誰かの家に集まりましたよね」と田中さんが懐かしむように、他人を自宅へ入れなくなり、公園には規則が定められ、不審者の出没も警戒される時代。ちょっと集まって雑談すれば「騒いでいる」と通報され、大声を出したり走り回ったりできる場所はいよいよ貴重です。
児童クラブは子どもたちにとって大切な居場所の一つ。そして、『じゃんぷ』も。でも、それだけで十分ではありません。行動範囲が限られる子どもたちにとって、自宅から通える距離にある施設が自分に合わなかったら行き場がなくなってしまいます。田中さんのメッセージボードには、そんな子どもたちをケアしたい意志が綴られていました。
「子どもたちが”ありのまま”でいられる場所を増やしていきたい」
多くの子どもたちが、自分にぴったりのスペースを見つけられますように。そして、田中さんたちのような親以外の誰かに、耳を傾けてもらえますように。そうすればきっと、大人になってから子どもに寄り添える人になってくれそうです。田中さんは言います。「未来の大人を育てているんです」と。
なるほど、命はつながれています。