伊万里市唯一の認可外保育園「 のいちご保育園 」を運営している #特定非営利活動法人のいちご会 。大瀧理事長(園長先生)のお話から、地域における保育の実情が見えてきました。
のいちご保育園は、定員19名の小規模保育施設。2014年の開園以降「子どもの気持ちに寄り添う」「保護者・地域と一緒に」を理念に活動されてきました。ほかにも子ども食堂や宅食、居場所づくりなど、地域の子育て支援を牽引する存在です。
「うちは、なんでも屋です(笑)」
以前、大瀧さんはご実家の経営する保育園で勤めていました。「それまで認可保育園のことしかわからなくて、認可外のことはやってみてからわかりました」と話すように、地域でただひとつとなる認可外保育園への挑戦は、各家庭のさまざまな事情を垣間見ることになります。
就労を問わず時間も柔軟、認可保育園の順番待ちやお産で里帰り中のときなど、一時預かりにも利用できる認可外保育園。とくに、のいちご保育園は洗濯も園で行う『手ぶら保育』が特徴です。利用者の中には、家族が病気になったという方や「このままでは虐待してしまう」と追い詰められた様子の方もいたそう。どうしようもなく困ったとき、最後の頼みの綱となっているのが、のいちご保育園です。
「私たちが預からなかったら、その先はありません」
大瀧さんの言葉から、のいちご保育園を頼る方たちの姿がありありと伝わります。当初の利用は医療・介護系のお仕事を抱える方が多かったそうですが、近頃はシングルマザーの方が増えているのだとか。実家に助けを求められず仕事もままならない、そうした過酷な子育て環境が想像できます。無理の続く暮らしは心を破壊していき、子どもの前であるべき親を維持できなくなるかもしれません。
たとえ、本人が遊びに行くためだと分かっていても無下に断らず「○○時までで大丈夫ですか?と受け入れることも必要」と大瀧さんは言います。もし、そこで安易にノーを突き付けたら、いよいよ行き場を失い、最近世間を騒がせた車内放置のような悲しい事件へとつながる可能性もあるでしょう。
そして、のいちご保育園を拠点に実施している子ども食堂では、まさに貧困と向き合うことになります。「学校の給食しか食べられない子どもがいます」と話す大瀧さん。なるべく目立つ支援を避け自身は仲介役になるなど、子どもへ配慮しながらサポートを続けていますが、これは決して特別なことではなく、とても身近なことだと言います。例えば、親が働けず住宅ローンが払えなくなったとき、すぐには生活保護も受けられません。あっという間に暮らしは失われ、貧困は訪れるのです。
「貧困は、誰でもすぐになります」
子ども食堂の食事は #フードバンクさが や民間企業から食材の提供を受け、保育園のキッチンで大瀧さんたちが手作り。栄養とともに愛情たっぷりの食事を100食、たった二人で調理されているそうです。必要なものを尋ねると「食料は支援のおかげで形になっています。あとは大きなキッチンのある場所が無償でお借りできたら・・・」と、教えていただきました。確かに、保育園とはいえキッチンは一般家庭仕様。このままでは作業が大変そうです。今年から宅食もスタートし、さらなる支援に欠かせない『場所』がいま、求められています。
続いて大瀧さんが懸案として挙げたのは、学校に苛まれる子どもたちの存在です。小学校で授業に付いていけなくなったり、親が自分は高校に行かなかったからと子どもにもそれを当たり前としてしまったり。貧困から高校さえ「記念受験」してしまうとも聞きました。子どもたちは一体どう考えているでしょうか?本音を言える場所、相手がいるでしょうか。
「卒園生も遊びに来てくれますよ。ここに戻りたいって(笑)」
疲れたら戻ってこられる場所。ちゃんと耳を傾けて聞いてくれる相手。幼少期を過ごしたのいちご保育園が、子どもたちの人生で重要な役割を持つ心のよりどころになっています。ネグレクト、自己肯定感の欠如、思春期。仮に危険な出会いがあったとしても、頭に浮かぶ顔が多ければ一歩を踏み誤らずにいられるでしょう。
「たまり場って言われることもあるけど、居場所です」と笑う大瀧さんがいれば、子どもたちの世界はともし火を失わずにいられそうです。
数年前、小規模保育施設が相次いで認可を取得する風潮が見られました。それでも大瀧さんは、保護者たちから寄せられる『ずっと認可外でいてほしい』という声を尊重します。その保護者たちを理事に置いて生まれたのが、特定非営利活動法人のいちご会。これからの活動についてお聞きしました。
「一人の子どもも取りこぼさない。助けを求めるなら、必ずなんとかしてあげたい」
大瀧さんの言葉は、自分たちがどうではなく、理念云々でもなく、目の前を生きている子どもたちに向けられた真摯な思いです。『すべての子どもに、最善の利益を』と記した子どもの権利条約、その批准国の私たちが遵守するべき基本を体現する、温かくて力強いメッセージ。
取材を終えたのはちょうどお昼寝タイム。かわいい寝顔の並ぶ部屋を横切ると、初めて会った子どもたちに愛しさがこみ上げてきました。